国際博物館会議(ICOM)日本国内委員会での報告:武力紛争下の文化遺産保護について

国際博物館会議(ICOM)日本国内委員会での報告の様子(撮影:関広尚世)

 令和6(2024)年5月19日に国際博物館会議(ICOM)日本国内委員会の総会と公開シンポジウムが国立民族学博物館で開催されました。この総会において、無形文化遺産部長・石村智が「スーダン武力紛争における文化遺産保護について」と題した報告を行いました(清水信宏氏[北海学園大学]、関広尚世氏[京都市埋蔵文化財研究所]との連名)。私たちはこれまで科学研究費事業「ポストコンフリクト国における文化多様性と平和構築実現のための文化遺産研究」において武力紛争下にあるスーダンの文化遺産の現状について情報収集を行っており、その成果を発表しました。
 スーダンでは令和5(2023)年4月に始まったスーダン国軍と準軍事組織である即応支援部隊(RSF)との間の武力紛争が現在まで続いており、同国の有形・無形の文化遺産も深刻な影響を被っています。私たちはこれまでスーダン国内・国外のスーダン人文化遺産専門家および英国をはじめとする国際的な専門家と連絡を取り合い、その現状についての情報収集を行ってきました。今回はその成果を報告するとともに、国際博物館会議(ICOM)を通じたスーダンに対する国際的な支援の必要性を訴えました。
 国際博物館会議(ICOM)はブルーシールド国際委員会を構成する組織のひとつです。ブルーシールド国際委員会とは、昭和29(1954)年に国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)で採択された「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約」(通称ハーグ条約)に基づき、武力紛争や災害によって存続の危機に面している文化遺産を保護するための活動を行う国際的な枠組みで、平成8(1996)年に設立されました。日本は平成19(2007)年にハーグ条約に批准し、117番目の締約国となりましたが、日本はまだブルーシールド国際委員会には未加盟となっています。
 日本は昭和20(1945)年の終戦以降、幸いなことにこれまで大きな武力紛争に巻き込まれることはありませんでした。しかしその後も世界各地では武力紛争によって多くの文化遺産が被害を受けてきました。これまで日本はカンボジアやアフガニスタンにおいて武力紛争後(ポストコンフリクト)の文化遺産保護の国際協力を行ってきており、国際的にも高い評価を受けてきました。
 しかし昨今の状況を見ると、スーダンだけではなくウクライナやガザ地域など、世界の様々な場所で武力紛争が継続しており、多くの文化遺産が危機に瀕しています。こうした文化遺産を守るために私たちは何ができるのか? 今回の私たちの国際博物館会議(ICOM)日本国内委員会での発表がそのことを議論するきっかけとなることを願っています。

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